入門講座

其の5
アスファルト基礎知識

改質アスファルトのいろいろ

5-2改質アスファルトの歴史と変遷

日本での道路舗装用改質アスファルトの検討は、1950年代から始められましたが、本格的に採用されるようになったのは、1966年にアスファルト改質材のSBRラテックスが国産化されてからです。ゴムラテックスの特徴を利用し、主にアスファルト混合物の低温物性を改良し、寒冷地舗装の耐ひび割れ性や耐摩耗性、骨材付着性の向上を目的としたもので、アスファルトプラントで混合物製造時に直接ミキサーに添加できる簡便性もあって、1970年代に大幅に普及しました。

また、70年代後半は、交通荷重の増大による舗装の流動が問題となり、(社)日本アスファルト協会が中心となって、重交通舗装用セミブローンアスファルトの開発が進められました。更に、70年代には加硫ゴムに匹敵する強度を有するスチレン系熱可塑性エラストマーが登場し、流動対策用の改質材として着目され、アスファルトへの溶解・混合性に優れているため、工場生産のプレミックスバインダ用改質材として広く使用されるようになりました。

排水性舗装の適用例(写真右:排水性舗装)

排水性舗装の適用例(写真右:排水性舗装)

80年代前半は、1980年のイラン・イラク戦争による原油高騰で、舗装用アスファルトの需要が減少し、改質アスファルトの伸びも大幅に低下しましたが、1988年にアスファルト舗装要綱の改定により、改質アスファルトがそれまでの特殊材料から、一般材料としての位置づけに改定されたことにより、1990年代以降大幅な伸びを示しました。90年代後半は、主に耐流動性改質アスファルトの需要が大きく伸びましたが、90年代後半から道路の環境対策の一環として排水性(低騒音)舗装の採用が全国的に展開され、ポリマー改質アスファルトH型を中心に需要が増加し今日に至っています。

改質アスファルトの歴史

1898(明31) フランスでゴム添加の試み
1947(昭22) 米国で合成ゴムラテックス入りアスファルトを試験施工
1952(昭27) 東京都で天然ゴム粉末を試用
神戸市で屑ゴムを試用
1954(昭29) 北海道開発局が天然ゴム粉末を国道36号試験舗装
1955(昭30) 北海道大学がゴム入りアスファルト混合物の本格研究を開始
1960(昭35) 天然ゴム・アスファルトマスターバッチを商品化
天然ゴム入りアスファルトの市販を開始
1962(昭37) IISPR(国際合成ゴム生産者協会)がアスファルト舗装へのゴム利用の積極的研究を開始
1965(昭40) 札幌市で輸入SBRラテックスを試用して試験施工を実施(プラントミックスタイプ)
1966(昭41) 北海道開発局が輸入SBRラテックスを試用して国道36号で試験施工を実施
アスファルト改質用国産SBRラテックスの市販を開始
1967(昭42) 北海道開発局が国産SBRラテックス使用プラントミックスタイプアスファルト混合物製造方式を実用化
1968(昭43) FHWA(アメリカ合衆国連邦道路局)の提案によりユタ州でSBRラテックスを使用して試験舗装を実施
ISRP極東部会は合成ゴムラテックスのアスファルト舗装への利用技術の確立をめざして「ゴムアスファルト研究会」を発足
1969(昭44) 建設省道路局が千葉県でSBRラテックスを使用して試験舗装を実施
東名高速道路で大々的にゴム入りアスファルトを使用(プレミックスタイプおよびプラントミックスタイプ)
1971(昭46) 北海道開発局が特定箇所へのゴム入りアスファルト使用を想定
東京都がゴム入りアスファルトの大規模試験施工を開始
樹脂入りアスファルトの市販を開始
1975(昭50) アスファルト舗装要綱でゴム入りアスファルトの標準的性状をプレミックスとプラントミックスに分けて設定
1978(昭53) ゴムアスファルト懇話会(日本改質アスファルト協会の前身)が設立
アスファルト舗装要綱でゴム入りアスファルト、樹脂入りアスファルトおよびAC-140を特主材料として採用
1987(昭62) 排水性舗装が低騒音を目的に東京都環状7号線で施工
1988(昭63) アスファルト舗装要綱で改質アスファルトを一般材料とし、ゴム入り(Ⅰ型)、樹脂入り(Ⅱ型)アスファルトのプレミックスをプラントミックスを一本化した標準的性状を設定、セミブローンアスファルト(AC-100)も一般材料となる
1992(平4) 日本ゴムアスファルト協会の名称を日本改質アスファルト協会に変更
アスファルト舗装要綱が改訂される
○熱可塑性樹脂の呼称を熱可塑性エラストマーに変更
○改質剤の種類による区分をその性状による区分に変更
○改質アスファルトⅠ型を一本化した標準的性状を設定
○粘度-温度曲線の廃止 など
1993(平5) 機関誌「改質アスファルト」を発刊
関東地建で表層に再生改質Ⅱ型の試験舗装を実施
1995(平7) 「ゴム・熱可塑性エラストマー入り改質アスファルトポケットガイド」を発行
1996(平8) 排水性舗装技術指針(案)が発行され、標準的な場合、高粘度改質アスファルトを推奨し、その標準的性状を設定
日本改質アスファルト協会規格を制定
1999(平11) 日本道路公団の設計要領第一集「舗装編」で高機能舗装が新規に加わり、高粘度改質アスファルトの使用が原則とされる
2001(平13) 舗装設計施工指針が発行され、改質アスファルトの標準的性状に、高粘度改質アスファルト、付着性改善改質アスファルト、超重交通用改質アスファルトが加わる
2004(平16) 日本道路公団の設計要領第一集「舗装編」が改訂される
○高粘度改質アスファルトが一般用と寒冷地用に分かれる
○高粘度改質アスファルトにバインダの曲げ試験を導入する
2006(平18) 舗装性能評価法が発行され、舗装の性能指標を評価する方法が取りまとめられる
舗装設計施工指針および舗装施工便覧が改訂
○ゴムや熱可塑性エラストマーで改質されている改質アスファルトをポリマー改質アスファルトとする
○ポリマー改質アスファルトの分類をグレード表記
○ポリマー改質アスファルトの規格を改訂
舗装設計便覧が発行され、舗装の設計に関する事項が取りまとめられる
日本改質アスファルト協会規格の改訂

焼山 明生 (日進化成㈱ 技術研究所開発グループ)

【参考文献】
  1. 井町弘光「最近の改質アスファルトの動向と今後の課題」改質アスファルト18号(2002)
  2. 「日本改質アスファルト協会ビジョン」平成20年9月 日本改質アスファルト協会